昔、あるスーパーマーケットの店内風景を撮影していたら、一人のおばさんが「私の姿が写っては困る」と、私ではなくそのスーパーの店長さんに苦情を言ってきた。もちろん私は店長さんにも断って(というか、本部の広報担当者の指示で)撮影していた。でも、店長さんにしてみればお客さんの方が大事。ま、写っていたのは引きの写真で誰だかわからないし、その写真は使わないと約束することで納得していただき、事なきを得た。でも、世の中にはそういう神経質な人もいるのだ。
1月4日の新聞に、「マイザ」が「百人の顔」を販売停止にした、という記事が載っていた。「マイザ」は写真素材集を売っている会社で、CD1枚が9,000円位で価格的にも手頃なので、うちの会社でもいくつか購入し、重宝させてもらっている。人物を写した写真素材集はたくさんあるが、3万円とか7万円とかするものはちゃんとモデルを呼んでスタジオで撮影している。一方、「百人の顔」は背景がバラバラで、普通の人たちを手当たり次第撮り歩いた感は否めない。そうやって写された人たちが、思いがけない広告に自分の顔を使われ、広告主に苦情を言ってトラブルになっているというわけだ。「パチンコで大もうけした」なんていう事実無根の広告にいきなり自分の顔が使われていたら、そりゃ驚くわな。 モデルになってくれた人たちに対する説明不足が一番の問題のように思う。撮影したのは下請けのカメラマンだそうだ。ところが、「マイザ」は、「公序良俗に反した使い方をしてはいけないと利用規約に書いてある」と使う側(デザイナー)に責任があるというような主張をしている。でもなあ、公序良俗に反するというラインをどこに引くのかという問題を別にしても、素材集として製品になっている以上は、モデルもある程度いろいろな使い方をされても構わないと了解しているものと思うよね、使う側も。「百人の顔」っていって売ってるんだよ。顔だけ切り抜いて使うだろう、普通。 ある冊子の制作をしていて、「画面いっぱいの元気な小学生たち」のイメージ写真が欲しくて、小学校におじゃまして撮影させてもらったことがある。使う写真を決めたあと、そこに写っている子どもたち全員(の親)に「これこれこういう冊子に、このような塩梅で載りますので」と了承を得た。実際には小学校の先生に動いてもらったのだが、一人でも「NO」と答えが返ってくれば、違う写真を使わなければならなくなり、その写真に写っている子どもたち全員にまた了承を得なければならない。大変なことだ。「えらいことになったなあ」と思ったものだ。だからその写真がどんなにいい写真でも、違う要件には使えない。というか、たぶんもう二度と使うことができない画像素材といえる。世の中、そういうふうに厳しくなってきているんだな。 ちなみに、うちの会社では「百人の顔」は購入していない。
by hiroafukasawa
| 2009-01-06 20:27
| デザイン
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