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著作権を考える その1
 「デザイナーが作ったものには、全て著作権がある」という人がいるが、本当にそうだろうか。
 
 例えば、パンフレットからチラシ、チラシから新聞広告へと展開を考えたクライアントがいるとする。大手なら、デザイン会社や広告代理店に任せて、広告戦略として一括で作らせることもあるだろう。でも、多くのクライアントは場当たり的で、パンフはこっちのデザインやさん、チラシはこっちの印刷屋さん、と別々に発注する。そして、チラシを作るデザイナーには「パンフレットのデータがあるから使ってくれ。その方がアンタも楽だし、うちも校正しなくてすむ」みたいのなことを言ってくる。ところが、パンフを作ったデザイナーは「データはやれない。著作権だ」といいだす。クライアントが説得してくれればいいが、最悪、同じものを一から作ることになる。
 逆に、クライアントに「パンフのデータを使ってくれ」と言われて「いいえ、それは著作権があるのでいただけません」というデザイナーがいるだろうか。少なくとも私が知る限り、そんな人はいない。

 そもそも、著作権というのは著作物に認められる権利で、著作物というのは、その人の独自の発想によって生まれた美術とか、音楽とか、小説といった作品のことだ。最近ではコンピュータのプログラムにも著作権が認められている。世間では、その定義がどんどん拡大しているようだ。著作権を主張することは知っているが、著作物の定義を知らないという人もいるようだ。
 
 世の中には「デザイン=アート」で仕事をしている方々もいて、そのデザイナーにしかできない発想、アイデアで作られ、それ相応の時間と労力がかけられているのだから、そうした方々が著作権を主張するのはもっともだと思う。でも、私のような地方で広告やパンフを作っているデザイナーが、どこまで「私の作ったものは著作物です」と胸を張れるのか、疑問だ。
 例えば、だ。確かにデザイナーが作れば(それなりのデザインソフトを使ったりするから)、素人が作ったものと比べると、ちょっとはそれっぽいリーフレットやパンフレットが出来る。でも、プロのデザイナーが見れば、「この程度なら誰がやっても同じ」レベルだったりする。これって、著作物になる?
 例えば、A4のチラシで、原稿はクライアントがワードか何かでそれなりにまとめて作ったものがあって、「こんなイメージでやって下さい」と指示され、本当にそんなイメージで作って「イメージ通りです」ぐらいに誉められて、「じゃ、データを流用したいので」と言われたとたん、「デザイナーの私が作ったデータは著作物なので簡単には渡せません。広告でもチラシでも、私が作りますから制作料を別途下さい」というヤツがいる(印刷屋さんで働いているデザイナーに多い気がする)。「アンタは原稿をまねして作っただけ。こんなチラシなら、むしろクライアントの著作物じゃねえのか」と言いたくなるんだが、どうだろうか。
 
 広告制作をしていると、結構現実にこういう例が多くて、「クライアントの指示だから、しょうがなく渡します」みたいな感じでデータをもらう。開くとたいてい、アタリ画像にしてあったり、PDFだったり、レイヤーが統合されていたり、なんかしら意地悪いひと手間が加わってたりする。
 
 デザイナーの利益を著作権で保護しなければいけないというのは良く理解できるし、著作権を主張しなければいけない局面があれば、迷わず戦う。でも、現実と乖離している部分も多々ある。むしろ「この程度のデザインじゃ、著作物になりゃしない」と割り切った方が気が楽だったりする。私は、オフで油絵を描いているから余計にそんな考えに傾く。私が描く油絵は、誰がなんといおうとオリジナルの著作物だから。美術作品としての評価は別として・・・。
by hiroafukasawa | 2008-03-26 12:41 | デザイン
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