バルールについて、図を加えてもう一度考えてみる。バルールというのは、「色価」と訳されるもので、色の強さというようなもの。単純に色が鮮やかとか明るいとかではなくて、周りの色やその色面の形とかで左右されたりする。もちろん、遠近法とも関係ない。近代絵画では、バルールを「合わせる」のが基本で、合っていないと遠近感がおかしかったり、画面が凸凹して見える。
○絵画空間の断面 下の図のような絵があったとして、この絵の中の奥行き感を断面図として表すとⓐのようになる。 これは遠近法を使った写生的な絵の場合。実際の絵の表面は平板だが、絵画世界では人物が手前にいて、山が奥の方にあるように見える。 写生の場合は、見た通りに描けば大抵、空気遠近法に乗っ取った描き方が出来るはず。このときバルールは、遠近感に添って「合っている」状態になる。ところがバルールを上手に扱えず、ひどく狂ってしまった状態がⓑになる。 色の強さがまちまちなので、木の一部が飛び出して見えたり、人物の一部が変に奥に行ってしまっている。前後関係もあやふやになる。奥に引っ込んで見える色面ほどバルールが弱いという。モチーフをたくさん集めた静物画なんかを描くとこういうことが起きてくる。ただ、描いていて「おかしいな…」と気がつくことも多い。 近代絵画の場合は、画面を平面に仕上げていくので意識してバルールを(変に弱いところがないように)「合わせていく」。なので、写生の「バルールが合っている」と近代絵画の「バルールが合っている」では、微妙なニュアンスが違うわけだ。平面絵画世界の断面を図にするとⓒのようになる。 「平面」に描くのと「平板」に描くのは微妙に違う。平板に描くと、絵画世界の奥行きがなくなって、ⓓのように図案的になる。 ⓒの平面絵画で、バルールが狂ってしまうとⓔのようになる。ここまでひどい例は少ないと思うが、ⓑと同じで、前後関係があやふやになってくる。背景の山に人物がめり込んでしまっているようなことが起きる。 このようなバルールの狂いを見つけ、直してⓒのような画面が出来上がると、平面的絵画の完成になる。ところが、同じようにバルールを合わせても、強い画面にならないことがある。ⓕのように、バルールを弱い方に合わせてしまった場合だ。ⓒのように絵画の表面に迫るような力がなく、絵画の表面との距離感があり、絵の世界がなんとなく奥の方に引っ込んでしまっている感じ。 ちなみに、抽象画では平面というより、ⓓのように「平板」に見える絵があるが、平板に描いたにもかかわらずバルールが狂うとⓖのようになる。 色面がぎくしゃくしている感じ。ただ、そういう効果を狙った作品もあるので、「狂っているからダメ」というわけではない。 つづく
by hiroafukasawa
| 2014-08-20 18:28
| バルール
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