調べものをしていたら、昔書いた文章(社内報の「たからもの」というコーナーに寄せたもの)がでてきたので、転載してみる。
大学二年の秋から、同じ美術科の先輩がいるぼろアパートに下宿した。その「若草荘」には、私と入れ替わりに卒業した先輩が絵描きを目指して暮らしていたり、四年のころには同級生が隣の部屋に住んだりと、とにかく溜まり場になっていた。そこで連日連夜のように開かれていたのが「マージャン大会」だった。 だれもが初めての経験でお互いにルールを説明しながら、チョンボを繰り返しながらの大騒ぎだった。賭けるのはジュースと"プライド"だけ。いかにきれいな"手"で上がるかに関心が集まっていた。 延々と続いた戦いの記録はいつしか巻物となった。卒業の時にこの巻物をコピーして主なメンバーに配った。彼らも大切に保管してくれているものと思う。 広げて見れば、いつでもあのころのことが蘇ってくる。役満の興奮、打ちながら眠っているヤツ、明け方になると強くなるヤツ。マージャンだけじゃない。六畳一間に十三人が集まって鍋をつついたことや、朝まで飲んで騒いだことなどが一緒に思い出される。友情があり恋があり、エゴの衝突があった。貧乏暮らしに涙したこともあった。それらの思い出が点数と点数の間に染みついている。匂いさえする。 ちなみに私のトータルは+120だった。 14年くらい前、うちの会社に中国から研修生が来ていたことがあった。英語はペラペラ、日本語もかなり流ちょう。かわいい顔をした女の子で、しかもエリートだ。私が「イー、アル、サン、スー」と中国語で数字を数えると、とても驚いて「どうして覚えた?」と聞いてきた。日本人は中国語に興味がないとでも思っていたのだろうか。 「マージャンだよ」と教え、彼女が来る数ヶ月前に発行されたこの社内報を渡し、前述の記事を読ませてあげた。彼女はいい子だったので、お世辞だと思うがとても感心して「いい文章だ。漢詩にしてもいいかもしれない」といってくれた。それが何だかとてもうれしかった。彼女は今どうしているのだろう。きっと幸せなんだろうな。結婚して子どもが出来て、家族で北京五輪を楽しんだことだろう。それとも、キャリアウーマンになって、中国とはいわず世界を相手に仕事をしていて、五輪どころじゃなかったかも。でも、日本語を読んで漢詩に変換するって、すごいな。・・・ん? そうでもないのかな?
by hiroafukasawa
| 2008-08-29 20:02
| 若草荘物語
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