ここのところずっと、「イラストと美術作品の違い」を改めて考えていて、文章にまとめてみた。自分の覚えとしてここに載せておくもので、読んでもらわなくてもかまわない。長文だし。しかも上から目線だし・・・。
「イラストのような絵だ」という批評を耳にすることがある。近年、出版界などで芸術的傾向の強いイラストが重用されたり、美術作家の作品をイラストとして利用したり、その境界が曖昧になってきた。どこまでがイラストで、どこからが美術作品なのか、考えてみた。 ●落書き 他人に見せることを前提にしていない絵。描いた本人(とその周辺の数人)だけが楽しむような絵。 ●幼児の絵 展示するかどうかは知らないが、周りの人に伝えたい気持ちはいっぱいの絵。遠近法や天地も無視して、描きたいものを描きたいように描く。絵画の本質がここにある。 ●イラスト そもそもイラストというのは、「挿絵」であって、文字で書かれた物語を、視覚でフォローしようというもの。つまり物語の視覚的「再現」。他人に見せることを前提にしていて、事物・事象を再現して、誰にでもわかるように説明するための絵。それは写実ということだけではなく、たとえデフォルメしてあっても、色彩が独特であっても、誰が見てもそのものがそのものとしてわかるようにと意図され、説明的に描かれている。作家が以上の目的で描いたものがイラストである。 イラストとは 1. 上記のように作家がイラストとして描いた絵。商業的に成功する、しないは別の問題。 2. 作家はイラストとして描いたが、クオリティが高く、ユーザー個人が美術作品として扱う絵。実体はあくまでもイラスト。 3. 本来はイラストだが、美術品販売会社が「アートである」と付加価値をつけ、商品として扱うもの(詐欺まがいの商法もある。作家自身が被害者になるケースも)。実体はやはりイラスト。 ●美術作品(ファインアート) 描くテーマを吟味し、「説明」することにこだわらず、その作家だけの「表現」がなされている作品が「美術作品」といえるのではないか。展示することが前提なので、独自の表現を追求する一方で、独りよがりに陥ることを避ける。作家個人の「表現に対する欲求」から始まり、完成作品には普遍性を加えることをめざす。 ところが問題なのは、美術作品として描かれたものでも、残念ながらクオリティの低い作品があること。 4. 作家は美術作品として描いたかも知れないが、形を取って固有色を塗っただけの絵では、美術作品にはだいぶ遠い。ぬり絵に近い。 5. 作家は美術作品として描いているのかも知れないが、デッサン力も表現力もなく、アラばかりが目立つ作品。うっかりすると「素朴派」などと冠をつけられることがあるが、素朴と下手は違う。 6. あまりに説明的すぎて、絵から受ける感動もないような絵。あるいは、作家自身の意識が、上記イラストの項のように物事の再現にとどまっている。これは限りなくイラストに近い。ただ上手な絵。 7. 描くことがただの「作業」になっているような絵。描きはじめから完成までストレートに作業が進み、一通り塗り終わったところで機械的に終了する。作品が、作家が持つ完成イメージにかなり近い形で完成する。紆余曲折も試行錯誤もない。いわゆる「イラストのような絵だね」と批判されるのはこんな絵か。作品から「安直さ」を感じ、 「私にも描けそう」というような感想を持たれてしまう。 というような美術作品が世の中にはたくさんあって、「イラストと美術作品の違いは何か」という話をかなりややこしくさせている。「こんな絵より、あのイラストの方が数段いい」ということが頻繁にある。 ならば、美術作品とは 8. 作家が描きたいテーマを持っていて、そのテーマを表すのに最善と思われる表現手法によって描かれる。 9. 物事の「再現」や「説明」にとどまらず、オリジナルな「表現」によって描かれる。「絵づくり」がされている。 10. 作家がその作品に対峙した軌跡が感じられる。試行錯誤の跡が感じられる。 11. 10もふまえて、人の心に届くものがある。言葉や文字で表せない感情や感動を表している。「怒り」「悲しみ」、または「迫力」「静けさ」といった感動。例えば写実でも、(写真のように描けているだけの作品と違い)ずば抜けた作品は見る人に感動を与える。ただし、これは人の心に届くものなので、誰にでも同じ意味を伝えることはできない。見る人それぞれに届くものが違うかもしれない。それは美術作品の懐の深さである。 つまり、作家が「説明」のための「道具」として(イラストを描こうとして)描かれた作品はイラスト。なので、イラストが美術作品になることはないはず。イラストレーターが美術作品を描こうとしてできた作品は美術作品になる。ただし、美術作品もそのクオリティによる。クオリティの高い美術作品は、「説明」することにこだわらず、試行錯誤の積み重ねにより絵づくりがされていて、その作家だけの「表現」がされている。さらに、見る人に感動を与えることができる。それが「美術作品」だ。
by hiroafukasawa
| 2012-06-07 11:11
| イラストと美術作品
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